bookmark_border[533] 電波伝搬シミュレータ(VOACAP Online)

先週末12m FT8で初めてクウェートとのQSOが成功したことから、どの様な伝搬状況だったのか知りたくなり、初めて「VOACAP Online for Ham Radio」を使ってみました。

これは米国VOA(Voice of America)が、自局の電波がどのように飛んでいくかをシミュレートするために開発したツールで、アマチュア無線用も用意されWeb上で公開されており、無償で利用可能です。

サイトはこちらです。

(VOACAPサイトの表示画面より引用)

画面上方にある「TX QTH」「RX QTH」をプルダウンで選択でき、JAは東京、京都、広島、鹿児島、札幌のいずれかを選ぶことができます。試しに「TX QTH」にJA Tokyo、「RX QTH」に9K Kuwaitを設定してみました。

次に、画面右側で通信モード(FT8)、送信出力(50W)を選択します。その下の「Antennas」ボタンを押すと、左側にTX/RXそれぞれのバンド毎のアンテナを選択する画面が現れます。

今回は12mのみで状況を確認したかったので、12Mのアンテナに「1/4 wl Vertical」を設定しました。RX側はデフォルトのままにしています。右側の「Setting」をクリックすると今度は各種設定画面が現れます。

・General Propergation Settings
Noise:これは自局のノイズ環境を設定するもので、住宅地(Residential)を選択しました。
SSN: 数か月間の平均値を入力するようですが、デフォルト「-1」のままにしておくと、自動で直近のSSN値が適用されるようです。
Min.TOA: 打上げ角でデフォルトのままにしました。

・Coverage Area Map Settings
Band: 12Mに設定しました。
UTC: 6(JSTの15時)に設定しました。

・TX Antenna Analysis Settings
Verticals,high dipolesを選択しました。

次に、右側の「Prop Charts」をクリックするとグラフが表示されます。グラフの種類は「Chart」のプルダウンで選択でき、「12M(24.9MHz)」を選ぶと下のような表示になります。

(VOACAPサイトの表示画面より引用)

凡例の上段3項にはそれぞれ「LP」が付いていますがこれはロングパス、下段3項はショートパスのデータです。「SDBW」(Signal Power at Receiver (dBW))は受信側Sメータの振れ、「MUFday」は使用周波数が MUF(Maximum Usable Frequency)より低くなる日数の割合、「REL」(Circuit Reliability)は接続可能性とのことです。横軸はUTCです。表示不要なデータは凡例の該当部分をクリックするとOFFになります。

最後に右側の「Prop wheel」をクリックするとこの様なグラフが表示されます。バンド毎の時間(UTC)単位での接続可能性のようですが、こちらのグラフの方が直観的に分かり易いかも知れません。

(VOACAPサイトの表示画面より引用)

このグラフはショートパスのものですが、ロングパスの状況を見るときは「SP」ボタンを押すと「LP」に切り替わりグラフも変わります。その下の「NoEs」ボタンはEスポを考慮するかどうかの切り替えです。また円の中心にはカーソルをあてた部分の時間・バンド・%が数字で表示されます。

その他このシミュレータには様々な表示機能があり、画面下方にあるボタンを押すことで各種グラフやデータを表示できますがあまり試せていません。なお、データ自体は月々の平均値で、日ごとのきめ細かい変化は見ることができないようです。そもそもが幅を持つ確率値ですので仕方ないですね。

今回のシミュレーション結果から、12mバンドでクウェートとつながり易い時間帯は概ね5:00~7:00UTC(14:00~16:00JST)で、当局の交信実績と整合することが確認できました。でも上の円グラフを見ると、15mであればもっと確実だったかも知れません・・・

bookmark_border[12] 電界強度の測定

80年代前半、社会人になりたての頃の私の仕事は、海外向け自動車電話のシステム設計と、実際に出来上がったシステムでのカバレッジ(サービスエリア)の調査でした。

当時の自動車電話システムは、今の携帯電話システムのような無線基地局のアンテナをビルの屋上などにつけてカバレッジを細かく分ける方式ではなく、高い鉄塔の上に大きなアンテナを付けて電波を遠くまで飛ばしエリアを稼ぐ方式でした。そのため、いかに少ない基地局数やアンテナ数で広いエリアをカバーするかが課題であり、またシステム構築をしたのちサービスインの前にフリンジ(カバレッジの端っこ)や不感地帯の特定が必要となります。電波がどこまで届くか・・・というのは理論上計算が可能です。すなわち、アマチュア無線の試験にも出てきますが電界強度は距離に反比例するということです。しかしそれは送信側と受信側の間に何も障害物が存在しない「自由空間」上の話であり、実際はビルが立ち並ぶ都会などは伝搬状況が大きく異なります。

そこで参考にすべきバイブルが「奥村カーブ」です。奥村氏は、60年代から70年代にかけて東京タワーや筑波山に送信アンテナを設置して関東平野をクルマで走行し受信レベル(電界強度)の測定を行ったそうです。そして距離と受信電界強度の関係をグラフにした「奥村カーブ」を完成させました。奥村カーブを元に、送信電力、アンテナ利得、アンテナ高、受信感度(最低受信電界強度)などのパラメータを考慮し実態に即したカバレッジを推定するのですが、海外など広大な土地に無線基地局を設置する際は補正が必要でした。

実際にシステムが組み上がったあと、現地でバンを借りてエリア内を走行し電界強度測定機で測定する作業に参加しましたが、当時はGPSなどは使うことができず、紙の地図上に電界値を手書きでプロットしていく作業が延々と続きました。大変ではありましたが良い思い出として残っています。