[12] 電界強度の測定

80年代前半、社会人になりたての頃の私の仕事は、海外向け自動車電話のシステム設計と、実際に出来上がったシステムでのカバレッジ(サービスエリア)の調査でした。

当時の自動車電話システムは、今の携帯電話システムのような無線基地局のアンテナをビルの屋上などにつけてカバレッジを細かく分ける方式ではなく、高い鉄塔の上に大きなアンテナを付けて電波を遠くまで飛ばしエリアを稼ぐ方式でした。そのため、いかに少ない基地局数やアンテナ数で広いエリアをカバーするかが課題であり、またシステム構築をしたのちサービスインの前にフリンジ(カバレッジの端っこ)や不感地帯の特定が必要となります。電波がどこまで届くか・・・というのは理論上計算が可能です。すなわち、アマチュア無線の試験にも出てきますが電界強度は距離に反比例するということです。しかしそれは送信側と受信側の間に何も障害物が存在しない「自由空間」上の話であり、実際はビルが立ち並ぶ都会などは伝搬状況が大きく異なります。

そこで参考にすべきバイブルが「奥村カーブ」です。奥村氏は、60年代から70年代にかけて東京タワーや筑波山に送信アンテナを設置して関東平野をクルマで走行し受信レベル(電界強度)の測定を行ったそうです。そして距離と受信電界強度の関係をグラフにした「奥村カーブ」を完成させました。奥村カーブを元に、送信電力、アンテナ利得、アンテナ高、受信感度(最低受信電界強度)などのパラメータを考慮し実態に即したカバレッジを推定するのですが、海外など広大な土地に無線基地局を設置する際は補正が必要でした。

実際にシステムが組み上がったあと、現地でバンを借りてエリア内を走行し電界強度測定機で測定する作業に参加しましたが、当時はGPSなどは使うことができず、紙の地図上に電界値を手書きでプロットしていく作業が延々と続きました。大変ではありましたが良い思い出として残っています。

 

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